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WITHOUT SOUNDS

グデグデと夜更かしがちな後追い探訪録(旧・一人音楽座談会)

この1曲を聴くpt2 bloodthirsty butchers「7月/july」('96) 

1曲についての感想やレビュー、考察を、「背景」「歌詞」「構造」「表現」の4項目でまとめてみる企画。各項目の詳細はこちらの記事を参照。

太字は強調、下線は繋ぎの強調、赤字は達成、みたいな感じです。

今回取り上げるのはbloodthirsty butchersの「7月/July」です。未だ色褪せない名曲ですね。なお、引用や注釈は「※」印によって最後にまとめています。

■背景

butchers_band.jpg
俺達はbloodthirsty butchersを忘れない。

ブラッドサースティ・ブッチャーズは、日本は北海道から出でたバンド。変則チューニングを絡めた独特なコードトーンによる、繊細に揺らぎ、燃えるように唸るギター。アルペジオを多用する独創的なベースライン。両者のあいだを色彩豊かに風巻いていくドラムス。三者が三者であることでしか成り立たない、正しく無二の「バンドサウンド」を鳴らしていました(活動途中からはGtに田渕ひさ子が参加。そちらはまたいずれ)。

その音スケールには「エモ」や「ポスト・ロック」を、覇気には「パンク」「ハードコア」の言葉をあてられますが、「バンド名自体がジャンル」であるタイプの筆頭です。

彼らの代表作が『kocorono』で、先日のギターマガジンの特集「ニッポンの偉大なギター名盤100」では、プロミュージシャン555人の投票によって、錚々たるメンツのなか第4位に選ばれました(余談ですがそれが嬉しくってこんな記事を書き始めています)。そんなアルバムの核であり、自他ともに認める代表曲、それが今回取り上げる「7月/July」です。


 
■構造(音色、コード、リズム、手法など)

全体の進行を決定づけているのは射守矢 雄によるベースのアルペジオフレーズ。そこに風景を持ちこむのが吉村氏のギターで、曲の展開を締めるのが小松 正宏のドラムス。ブッチャーズの黄金比ですね。


一瞬でさらわれるイントロ、ギターとベースの何とも言えないトーン。歌という文法を獲得する以前の、「語り」のような形式で言葉を発していく吉村氏の歌唱もとい声。そこに連なる情感深いコード進行。ハイハットとシンバルの美しい響き。そのまま加速して到達する、巨大な感情が荒巻く後半のノイズパート。凶暴でいて、同時に、水しぶきがキラめく様すら浮かぶ澄んだ感覚……。

短編映画のような9分間です。この映像感は、「歌メロを繰り返しながら、コード進行がどんどん展開していく」点に妙があります。歌詞を大きく3ブロック(「ここにあるだけの~ぼくを永久に連れてく」、「照りつける陽の下で~セミの声はひびく」、「あふれるくらい」~)に分けたとき、その全ててコード進行が異なることが強く作用している。一方、そんな流麗な風景の移りかわりに対して、歌のメロディは不器用なまでに平坦で一本調子なのがまた、移ろっていくものと変わらない(変われない)もの、そんな対比みたいで何とも言えない。

この辺は、弾き語り用の記事を別途アップしたので、ギターを持っている方はぜひ味わってみて下さい


■歌詞

何度聴いても歌いだしにハッとさせられます。

「ここにあるだけの 夢を川で遊ばせ
 流れにまかせて 流れに逆らい
 夜には静かな 炎がもえ始め
 君に伝えたいだけ どこにも君はいない」


まどろみの中で、何かに囚われながら散文を綴っているような詩。ひたすら抽象的で漠然とした「君」という存在について、その関係性も、失ったのか去っていったのかも分からないけれど、「ぼく」は溢れる涙を必死にこらえている。本当にどうとでも解釈できるというか、人それぞれに違う景色が見えていると思います。断片的なシーンたちは取りとめもないが、一曲の歌のなか、見えない形で確かに繋がっていて進行している。聞き手は何故かそう感じられる。映像化したり物語に替えられない、そんな歌詞です。


■表現(まとめ)

自分が一番素晴らしいと思うのは、感傷に近いところから弾き始められたであろうこの「何か」――漠然とした感情が、音として膨れあがっていくうちに、まるで涙としてこみあげるかのように自然に発露されていく所です。なんでギターノイズにそんな感情を引き起こされるのか全く分からないけれど、この10分間には、ひとつの感情が音に鳴りかわっていくことで澄みきっていく、そんな感覚を覚える。最終的な余韻は「洗い流された」に近くて。

ブッチャーズというバンドは、なんというか「アンプリファー」みたいな奴らだと思うんです。それは何のフィルターもかからない、純粋な「増幅」。「歪みからは見えない音が聴こえてくるんですよ」※2とは吉村氏の弁ですが、まさにそうして描かれた名曲だと思います。この歪みは言い得ない何かを映し出していて、それがバンドによって巨大に立ちのぼっていく。その感覚は『yamane』で極まりますが、それはまた今度……。


■RSR 1999

えーそして、この曲に関してはこの映像も取り上げないといけない。『kocorono 最終版』に公式で紹介されているとおり、今もこの名演をシェアする方は多いです。7月だから思い出すというよりは、ふとした時、何かを確認するようにこの10分間を見つめたくなる、そんな人も多いんじゃないかと。


これは名演であって名映像なんですよね。音が広がっていくなか、朝焼けがステージに溶けたような色合いは本当に綺麗で、この曲、この演奏に相応しくて。カメラアングルもこれしかないと感じさせる。特に8:17あたり、一度ステージ全体を白い空から見下ろし、赤橙に包まれたメンバーを映し出していくシーケンスは、完全に映画のワンシーンです。信じられない。

自分がYouTubeで初めてこの映像を見たとき、確かこんな投稿者メッセージが添えられていました(ほかにも誰か覚えてますか)。アップロードしてくれた方には感謝しきりです。

「名演。投げ捨てたギターの音まで美しい。」

この動画は何年も前に消されてしまいましたが、いろんな人が継承のごとくアップロードし続けています。もちろん違法ですが、この映像はネットのどこかに残り続けてほしいんですよね。公式BDとかでたら勿論買いますけどね、なんかコレは、Youthbeくらいから見るのが一番ふさわしい気がする。


……うん、なんかポエムが凄くなってきたので苦笑。この辺で。吉村語録※2でソレっぽく締めます。

「未完成なんだけど''それでいいんだ''じゃなくて''もっとやるんだ''っていうか。
''未完成のままでいい''じゃなくて''未完成でももっともっと''っていうのが幸せというか。」


ではまた来年の7月まで、お元気で。

※1. Guitar magazine 2020年7月号より
『kocorono』が取り上げられており、「7月」のギタースコアその決定版を掲載している点で即購入ものですが、特集自体の質が非常に素晴らしい内容でした。完全保存版に偽りなし。オススメです(Kindle版にはギタースコアないので注意!)。長年この4つ目のコードが謎だったんですが、F7 on Aという解釈に更にクエスチョンマークが増えました。どこからこんな進行が生まれるんだ……そして何故こんなに響くんだ……


※2. Guitar magazine 2014年1月号より。
吉村秀樹氏の追悼特集号です。未見の方はぜひ。



■関連曲

今回は吉村氏のことばにそって、「歪みから見えない音が聴こえてくる」名曲を2つ。


ゆらゆら帝国「無い!」
ライブ版の方ですね。この動画と7月のRSRを同時期に見て衝撃を受けたって人は自分以外にも結構いるのでは……。ベースのアルペジオの反復とポリリズムのギターリフ、そして「最終回の再放送はない」という名フレーズ。名曲。にしても、「びんづめ のためい きがうみ にながさ れたよ」(瓶詰の溜息が海に流されたよ)という、4文字ずつ切り取って断片・抽象化した歌詞は完全に発明です。この言語、歌唱感覚が、のちのsalyu * salyu小山田圭吾との仕事に直結していきます。




Yo La Tengo「Blue Line Swinger」
ギターノイズの長尺曲といえば。あの時に誘い込まれるようなシンセの響きから、エイトビートに駆け込んでアコースティックギターがジャーンと入ってくる瞬間!歌がパッパッ……とノイズと散っていく箇所に何度聴いても泣きそうになる。これも大名曲。この3曲は人生単位で特別です。
そういえば皆スリーピースバンドですね。やっぱりこの形式は好きだな……。

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Comments 2

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2020/08/02 (Sun) 08:54 | EDIT | REPLY |   
サム">
サム  
Re: No title

ご指摘ありがとうございます。
該当部分を訂正しました!

2020/08/02 (Sun) 13:18 | EDIT | サムさん">REPLY |   

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